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Using networks for your research

Using networks for your research

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From: harigaya@etl.go.jp ("Harry-chan" as Kikuo Harigaya)
Newsgroups: fj.news.usage,fj.archives.documents,fj.archives.answers,fj.sci.physics
Subject: Using networks for your research
Message-ID: <1994Jun3.133122.15213@etl.go.jp>
Date: 3 Jun 94 13:31:22 GMT
Organization: Electrotechnical Laboratory, Tsukuba Science City
Lines: 227
Xref: nucl fj.news.usage:1320 fj.archives.documents:38 fj.archives.answers:84 fj.sci.physics:2159
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Archive-name: networks-for-your-research
Last-modified: May 6, 1994

「ネットワーク利用で研究生活を豊かに」
針谷喜久雄 <電子技術総合研究所電子基礎部>

目次:
1.ネットワークの世界への旅立ちを前に
2.メール,ニュースシステムとは何でしょう
3.メールで論文投稿し,プレプリントを交換しましょう
4.研究速報サービスで最新情報とつき合ってみましょう
5.メーリングリストで情報交換しましょう
6.分散型データベースを探検しましょう
7.ネットワークの旅のおわりに
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「ネットワーク利用で研究生活を豊かに」
針谷喜久雄 <電子技術総合研究所電子基礎部>
1994年5月6日版

1.ネットワークの世界への旅立ちを前に

電子メール,ネットニュースといった,世界的規模で接続されたネ
ットワーク資源を活用して研究者間で連絡を取り合い,また研究成
果を交換するという研究スタイルはますます一般化してきている.
ネットワーク利用について筆者の知る限りの現況を簡単に紹介し,
有効な利用法について考えてみたいと思う.電子メール,ネットニ
ュースに関しては,使用経験のない方を対象にして大まかに説明し
ていることを留意いただきたい.各種サービスの紹介では,詳細は
省いてある.興味があるならば,どのような機能があるか一通り把
握するためにも,参考文献欄にある方法でネットワーク経由で案内
を取り寄せ,一読することをお勧めする.間違っている点や言い足
りないことに関しては Internet: harigaya@etl.go.jp, 
HEPNET: tkyvax::hrgy あてにご指摘下さるならば幸いです.

2.メール,ニュースシステムとは何でしょう

ネットワークに接続されたワークステーションやパーソナルコンピ
ューターを利用して,世界的規模で研究者どおし,電子的に手紙を
交換することができる.これを電子メール(以後メール)と言う.
ネットワークには大学,研究所間を結ぶ主に学術目的のもの(UNIX系,
IBM系いろいろ),広く一般の利用を目的とした商用のものがある.
学術目的のものはインターネットと総称される TCP-IP を利用した 
UNIX 系接続が一般化して久しい.高エネルギー物理学分野では 
HEPNET と呼ばれる DEC マシンを併用して利用した接続が世界的に
確立しているようだ [1].

メールを利用するには,まず学術系ネットワークにつながっている
マシンにアカウントを獲得する.端末としては,ワークステーシ
ョンを利用しても良いし,パーソナルコンピューターからターミナ
ルソフトウエアを起動する設定でも良い.予算規模と周辺状況に応
じてハードウエアを準備すれば良いであろう.学術系ネットにつな
がったマシンには,メールを取り扱えるソフトウエアが必ず搭載さ
れている.マシンの管理者に相談するなりして使い方を覚えよう.
簡単な UNIX の入門用ガイドとしては,たとえば京都大坂本氏に
よる解説がある [2].メール住所の書き方は,インターネットの
もの HEPNET のものなどネットの種類に応じた書き方がある.イン
ターネット住所は,通常 user_name@machine_name.domain_name
のような形式を取る.machine_name がない設定の仕方もある.
筆者の住所はこの例である.HEPNET では machine_name::user_name 
という形である.

メールは個人対個人の情報交換の方法である.これに対し,一個人
対ネット接続された一般あてと言う情報交換方法もある.これは電
子掲示板または電子ニュース(以後ニュースと言う)と呼ばれてい
る [3].ニュースの記事配送はいわばバケツリレー方式で,ネッ
ト接続された多数のサイトを経由して行われる.ニュースを購読し
ているサイトのマシンにはニュース記事を読むためのソフトウエア
(ニュース・リーダー)が登載されている.それを利用して,記事
内容に応じて階層構造に区分されたニュースグループ群を登り降り
すれば良い.物理学に関連した情報を流し議論するためのニュース
グループでは,アメリカを中心にした地域から発信される sci.physics,
主に日本発の fj.sci.physics がある(fj は`from japan'の略).
fj.sci.physics を覗いてみると,米国物理学会発行の「WHAT'S NEW」
や American Institute of Physics 発行の「PHYSICS NEWS UPDATE」
が毎号投稿されていたりして,結構重宝する.

3.メールで論文投稿し,プレプリントを交換しましょう

Phys. Rev. Lett. や Phys. Rev. A-E の編集部は TeX 形式(LaTeX
などを含めてこう呼ぶことにする)で書かれたプレプリントをメール
で送ることによる投稿受付も行っている [4]. 航空郵便を使うより,
はるかに速く投稿論文を受理してもらえる.出版用原版が TeX ファイ
ルから直接作成されるので,ゲラ刷りの中にある文字数式のタイプミ
スが少ないという利点もある.メールを利用する投稿方法は Institute 
of Physics (London) 発行の J. Phys. などにも広がってきている.

LANL や SISSA 等では TeX (または postscript)形式で書かれたプ
レプリントを集め,関心ある研究者に配送するサービスを行っている.
日本では,京大基研にミラーサイトがあり,主に国内向けの配送を担
当している [5].プレプリントは,高エネルギー物理,応用数理
解析,物性物理の中のさらに細かい各分野に区分されている.関心の
ある分野を選んでメール住所を登録しておくと,前日まで貯まったプ
レプリントに関して,表題と要約部分だけ抜きだしたメールが,1日
1回送られてくる.論文の中味を詳細に知りたくなったら,改めて請
求のメールを京大基研あてに出せば良い.TeX 形式もしくは 
postscript 形式のプレプリントが返送されるであろう.

4.研究速報サービスで最新情報とつき合ってみましょう

メールを利用して研究速報を配送するサービスがいろいろな分野に
登場している.ここでは,筆者の分野に近いものを2例紹介しよう
(この種のサービスも5節で述べるメーリングリストに分類される
場合がある).

1986 年末以来,銅酸化物系高温超伝導現象の研究が急激に進展した.
1991 年有機超伝導でも C60 系において高温超伝導が見いださ
れている.アイオワ州立大学の Ames 研究所では,高温超伝導分野
の最近の重要な研究の要約集とプレプリントリスト,会議日程など
を集めた「High-Tc Update」を月2回発行している [6].
メール住所を登録しておくと,電子メール版が定期的に送られてく
る.毎号 2000 行前後あり,貴重な情報源として欠かせない.プレ
プリントは,論文著者本人に対して請求することになっている.ボ
ランティアでの運営であり,読者は自身の研究情報を提供してサー
ビスの維持発展に寄与している.

フラーレン系の研究速報「Bucky News Service」は,C60 の研
究者には有用な情報源である [7]. プレプリントの表題と簡単な
要約,問い合わせ先メール住所を論文1編あたり10行以内にまとめ
たもののリストが週1回送られてくる.プレプリントの実物が必要な
らば,著者宛にメールで請求できる.大量合成法発見以降のフラーレ
ンの研究進展速度は,Bucky News の存在のおかげで,さらに急激に
なったと言われている.メールによる研究速報は,研究の進展にまぎ
れもなく貢献している.

5.メーリングリストで情報交換しましょう

メールは個人対個人の,ニュースは個人対ネット接続された一般読
者あての情報交換方法であった.ニュースは広く世界中の異分野を
含む研究者に情報を送ることになるので,媒体としてはおおやけす
ぎると考えるグループもある.そういう場合は,メーリングリスト
と言う情報交換方法が使われる.簡単に言うと,メールシステムを
プライベートな電子掲示板として使うのである.ある特定のマシン
に,メーリングリストアドレスが設定される.そのアドレスは,概
念的に言うと興味関心をいっしょにした人々の集合体の総称なのだ.
ここに送られたメールは,メーリングリストを構成する人々各個人
のアドレスに転送される.各メンバーは返事をメーリングリストア
ドレスに送ることによって,有用な情報交換に寄与している.顔を
知らない人からの電子メールが毎日のようにメールボックスに飛び
込むようになるけど,しばらくやり取りしていると,相手が年中会
っている人であるように思えてくるものである.

筆者に近い分野では,東大物性研にて「計算物理学メーリングリス
ト」が運営され,物性物理学における計算物理学に関連した研究者
間で情報交換に用いられている [8].もうちょっと視野を広く取
って,物理学分野全般を対象としたメーリングリストが電総研にあ
る [9].本年4月末「トップクオーク発見か?」のニュースが世
界中をかけめぐったときは,素粒子から遠い分野の研究者をも交え
て,電子メールを飛び交わし情報交換したものである.東大物理学
科といった教育をも目的としたサイトでは,UNIX に関するもろもろ
の情報を交換するためのメーリングリスト「UNIX-SIG」[10] な
どが運用されている.実際にメーリングリストを立ち上げ運用する
に便利なソフトウエア(メーリングリストサーバー)のひとつとし
て,fml が東工大で開発され,フリーウエアとしてこのほど公開さ
れた [11].fj の読者が将来メーリングリストを立ち上げ運
用する機会がある場合には,存分に活用できるフリーウエアである.

6.分散型データベースを探検しましょう

1993年,分散型データベースサーバーのブームが日本中を吹き
荒れた.ニュースとは異なり,ユーザー自身がインターネット接続
された各サイトを自由に渡り歩き,必要な情報を入手する.ひとつ
のマシンを出発点にいわば芋蔓式にたどっていく訳だ.text 形式
のデータベースサーバーは Gopher と呼ばれる.Gopher を開発した
のはミネソタ州立大学である.Gopher はミネソタ人を意味するとい
う.Gopher は,また地ネズミといった意味も持つが,あちこち潜り
込んで情報を引っ張ってくるというイメージであろう.たとえば,ロ
スアラモス国立研究所の Gopher の「Physics Information Service」
に潜り込めば,高エネルギー物理や物性物理などの TeX 形式プレプ
リントを得ることができる.筆者名やキーワードによる検索ができ
るようになっている.ここに貯められているプレプリント類は 3節
で紹介したものと同じである.音やイメージ情報までを扱うデータ
ベースサーバーとしては,CERN で作られたWWW(World Wide Web)
がある [12].つい数日前,トップクオークが関与したと思われる
衝突イベント画像がWWWを使って公開されたと聞いている.WWW に 
Gopher や anonymous ftp サーバーへのアクセス機能を追加したも
のは Mosaic と呼ばれる.

7.ネットワークの旅のおわりに

日本化学会では,1994年の春の学会から電子メール利用による学会発表
申し込みの受付を導入した.はじめての試しみであったにも関わらず,
かなり多数の割合の電子メールによる講演申し込みがあったと聞く.日
本物理学会においても,事務連絡の電子化は将来を見越して検討される
だろうと考える.

この小文は,世の中に数多くある解説書,ネットニュース関連ガイド等
に触れ,実際に利用している間に覚えてきた知識をまとめあげたもので
す.原典をひとつひとつ網羅して紹介できませんでしたが,数多くの原
著者に感謝申し上げます.受け売り知識を書き連ねるのは,実は躊躇を
感じる作業でした.fj 読者に少しでもお役に立ちますならば幸いです.

参考文献:
[1] 渡瀬 芳行,藤井 啓文:日本物理学会誌 49 (1994) 84.
[2] 坂本 宏:「高エネルギー屋のためのユニックス入門」.入手方法
    については sakamoto@kekvax.kek.jp まで.自由に複写配布可.
[3] メール,ニュースなどに関する一般的なガイド,fj の規約集など
    は fj.archives.answers, fj.archives.documents あたりに投稿さ
    れる習わしがある.
[4] Phys. Rev. 各誌への電子的投稿方法については,各巻第1号冒頭
    に記事がある.
[5] 案内がほしい場合,listserv@jpnyitp.yukawa.kyoto-u.ac.jp あて
    に,本文に 「GET GUIDES PACKAGE」 とだけ書いたメールを送る.
    コントロールメッセージ中の大文字小文字の区別に注意.ほかの
    サービス(refs. 7, 8, 10)でも同様である.
[6] 問い合わせ先: mitra@ameslab.gov (Dr. S. Mitra).
[7] 案内がほしい場合,bucky@sol1.lrsm.upenn.edu あてに,本文に 
   「INTRO」とだけ書いたメールを送る.
[8] 案内がほしい場合,cpcmp@issp.u-tokyo.ac.jp あてに,本文に 
   「# guide」とだけ書いたメールを送る.
[9] 案内に関しては,ネットニュースの fj.sci.physics に投稿され
    ている.
[10]学外者にも公開中.案内がほしい場合, 
    unix-sig-request@phys.s.u-tokyo.ac.jp あてに,
    Subject: help のメールを送る.
[11]案内がほしい場合,fml@phys.titech.ac.jp あてに,なんでも
    良いから(空メールで良い)メールを送る.
[12]T. Berners-Lee and R. Cailliau: CERN 92-07, p. 69
    "World Wide Web".

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執筆者名:針谷 喜久雄(はりがや きくお;Kikuo Harigaya)
著者略歴:
1986 年 東京大学理学部物理学科卒業
1991 年 東京大学理学系研究科物理学専攻博士課程修了,理学博士,
その後,電子技術総合研究所電子基礎部物性基礎研究室
1992-1993 年 イギリス,シェフィールド大学理学部物理学科にて在外研究
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